コラム『百姓のまなざし』

情愛のふるさと

今日も田車押しをやった
長靴が土を掴み、歩行を困難にする
 
もう辛いからと
裸足でやったら
 
足の指の皮がめくれた
 
それでも裸足のほうが足が軽い
 
ついに私の身体の皮膚も土になったか
 
土に埋もれた私の身体
 
畔の草も虫も稲も水も
 
お互いの百姓が刈らずに残した田畑の境に咲く花も
 
全部含めて田んぼなのだ
 
そんな田んぼの中に入れば
 
自分と天地の境は無くなる
 
その境地の中で出会う
 
ゲンゴロウや子負虫の小刻みな手足の動きが光ってみえる
 
なんだ私の草取りの動きと同じじゃないか
 
そんなことを思ったとき、足がチクリ
 
稲の葉がここにいるぞ、誤って踏むんじゃないぞと教えてくる
 
こんなに生き物の生を感じられる空間が他にあるだろうか
 
それは私たちが頭で考える「生物」という、たぐいのものではない
 
生き物の生の意識が濃く伝わってくる
 
田んぼこそが私たちに魂が宿っていることを思い出させてくれる情愛のふるさとなのかもしれない