コラム『百姓のまなざし』

生命の充満している世界

田植えを終えて2週間も経つと
 
田んぼの中は生き物で溢れかえる
 
水底が好きな小さな無数のいきもの
 
そして、オタマジャクシ
 
水の中間あたりをひたすら泳ぐいきもの
 
水面がすきなもの
 
水面のすぐ上を飛んでいるもの
 
そして、畦にはセキレイ
 
空にはつばめやカラスがたち
 
そんな中、田車を押すために
 
田んぼに足を入れる
 
本当はこんなに生き物たちが充満している世界に足を踏み入れる場所などないとわかっている
 
一歩踏み出せば無数の命の輝きが消える
 
しかし、新しい命を生み出すのも百姓の仕事だと自分に言い聞かせる
 
だから、せめてこの空間に没入して我を忘れて仕事を進めるのだ
 
そして、この空間は先人の百姓たちが天地の空間を借りて、天地と調和して作ったものだ
 
だから、これだけ多くの生きものたちの住処となっているのだ
 
そこは遠くから見れば
 
土や水や草が物質のように思えたりもするかもしれない
 
だが、中に入れば明らかに無限の生死の循環が繰り広げられていることが感じられて
 
そして、そこに宿っている魂を見るのだ